
![]() 「最初はレコードキャンペーンで、球団に3日間だけ許可をいただいて始めたんです」 ところがそれが当時の公認応援団から気に入られ、野球場でのトランペットの効果に開眼。渡辺氏も満場の観客からの喝采を浴び、やがて野球そのものの魅力に開眼し、お互いにずっと続けることになったのだ、という。 「もともとなにか、身体を思いっきり使うことをやりたかったんです。生まれも育ちも横須賀で、帝国海軍軍楽隊のマーチで育ったんですから、あんなふうに思いっきり吹いてみたい、と願っていたんです」 終戦後は、学業の傍ら進駐軍を回るバンドで楽器を学んだ。持つだけで吹いてはいけない「かかし」をしながら先輩の技を盗み、いつしか学業を放り出して音楽の道へ。 「せっかく用意してくれた就職の道も放り出しちゃって、もうえらく怒られました。まっとうな道へ、というんだが自分はこっち(喇叭)こそ『まっとうな道』だと思っているから、話がかみあうわきゃないよね(笑)」 後に「ゴテナベ」と異名をとる強烈な個性は若き日から筋金入りだった。その後の戦後ジャズの隆盛期をともに歩み、今も「本業はディキシー」と語る「ゴテナベ」さんの喇叭は、本当に熱い。 「喇叭は、全身で吹くものですから、健康にもいい(笑)。いいメロディを心を込めて吹く。野球場でもライヴハウスでも、基本は同じです。毎日吹かなきゃ、心は楽器に伝わらないし、楽器は心をヒトに伝えてくれない。喇叭は心そのものなんです」 喇叭吹きの戦いは、まだまだ続くのだ。 |
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愛用のモデルはゴールドプレートのV.バック。CDは、渡辺氏も参加している「トランペット演歌」(6枚組)。演歌からトラッドジャズまで、渡辺氏の本領があますところなく収録されている。独特の、ひとことひとこと語りかけるような、歌詞を意識した演奏が魅力。一番と二番とで、旋律を吹き分けているのだ。「ここにはニニ・ロッソも収録されているんですが、彼ともその昔共演したことがあるんですよ」。他には加藤隆司、杉村彰氏が参加している。いずれも日本人の琴線に触れる演奏。通販限定だが、喇叭吹き必聴の1セットである。 |
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「これ、リムがはずれるんですよ、これこの通り!」と見せてくれた愛用のワーバートン2番のリムに3Vのカップと9Mのシャンク。「メッキがはげかかっているんで、はずかしいんだけどね(苦笑)そのときの調子によってカップの深さを変えるんです」。終始にこやかに取材に応じてくださった。野球と、トランペットをこよなく愛するその想いが、太い声の響きをともなってびんびんとこちらにつたわってきた。 |
取材中、ふと目をつぶり楽器を眺める渡辺氏。氏の楽器生活(と、ジャイアンツ生活)は、上の写真にもある著書「ジャイアンツブルース |
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